百万円と苦虫女

 は、蒼井優にも宮崎あおいにも蒼井そらにも、どなたにも特別な思い入れがあるわけではありませんが、この映画のポスターで、ざっくりしたグレーのパーカを羽織った蒼井優は、むやみやたらに可愛いなあーと思っていたんです。だから、しれっと前売り券購入してたんです。というわけで、平日の夕方だというのに混雑気味の渋谷シネセゾンで鑑賞してきました。

勝ち気だけど、世間から疎外感を感じている若い女性が放浪、そして自分のことを知っている人が誰もいない土地を点々とし、そこでの出会いやドラマが主人公自身を強くしていく.....こんなロード・ムービー的展開とストーリーは、本年度エカデミー賞ワースト1位ノミネートの『マイ・ブルーベリー・ナイツ』を想起させますけど、数倍、いや、数億倍はおもしろかったね。のほほんとしたスローな世界観を全面に出してくるのかと思いきや、随所に盛り込まれたユーモアと毒(ポイズン)のセンスが非常に高く、その匙加減も超絶妙。まず、旅1発目の海の家バイトで出会ったチャラい青年がヤバ過ぎる。こいつのキャラは本当に最高。彼が友達と興じたバカ話と、その後の山梨での喫茶店の店名がさりげなく繋がったことに気付いた人は、一体何人いるんでしょうか。

まあ、タナダユキ監督の真意は知る由もないけど、この映画の一番のポイントは「どこまでも果てしない曖昧さ」と、「姉弟の対比」なんじゃないでしょーかね。蒼井優演じる主人公の名前は「佐藤鈴子」で、佐藤なんだか鈴木なんだか混同しそうだし、トレードマークのパーカは黒と白の中間にあたる「グレー」ですからね。しかも、スペアまで持っているのには笑ってしまった。手紙をしたためるだけで、ラストまで一切会話すら交わしていなかったはずの弟くん(いじめられっ子)とシンクロし、最終的に姉貴と立場が逆転してしまうかのような構図は、約2時間の内に蓄積された観客のジレンマが一気に報われる、至高のカタルシスの瞬間だと言えるでしょう。うーん、素晴らしい。最後の街となる地方都市が、ちゃっかり僕が運転免許更新などでお世話になっている、埼玉県鴻巣市というのも素晴らしい。

主題歌はクラムボンの原田さんだし、挿入歌で赤犬が流れたりするし、フジロッカーなみなさんは絶対に好きになるだろう映画だと思います。東京ではほとんどの劇場が上映終了してしまっているので、急げー。

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