腕あち...

 、「べつに...」と、「うぜー」の3つの台詞だけがすべてを物語る、『ヤング・ジャンプ』に連載中のクライミング漫画『孤高の人』が面白すぐる。なにしろ某掲示板でも、

「絵はネ申!」
「絵うま杉」
「作画やべー」
「この絵師ほんとうまいな」
「原作にさえ恵まれていれば...」
「うまい、うますぎる」
「見開きで鳥肌たった」
「山に吸い込まれそうだ」
「全俺が泣いた」
「頭が真っ白になって...」

と絶賛の嵐で、こと画力に関しては微妙にキャラの首が長いという点以外は非の打ち所がなく、現在マンガ雑誌に連載している数多の作品においても、その実力は折り紙付きのトップレベル。ただ、初回のつかみこそバッチリだったものの、途中で原作者が交代してしまったり、プロのアルピニストを冒瀆するような無知な描写をしてしまったり、張り巡らせすぎた伏線をほとんど回収できずにストーリーはグダグダだったり、輪をかけるように掲載位置はほぼ毎週後半と人気も芳しくなく、連載打ち切りも時間の問題と言われていた。が、ここにきて主要人物のキャラクターやポジションが、文字通り山岳の天気のごとく急変し、ネ申展開に突入。掲示板ともども、ストーリーが再び活況を呈しているのです。

そもそもこの漫画の凄いところは、主人公である孤独大好きネクラっ子の森くんがセンスだけはあるが、オーラもカリスマ性も協調性もゼロに等しく、一切感情移入できない所にある。それを熱血教師の大西センセが執拗なまでに世話するのだが、その大西センセの最近の空回りピエロっぷりがとにかく凄まじく、その大西センセの大学時代のキャプテンであった悪徳ジャーナリスト黒沢先輩の、主役乗っ取り事件ともいえる悲痛でヒロイックな回想シーンと、リュックよりも重い背負った罪と過去がやばすぎて泣ける。もはや掲示板では必ず「黒沢さん」と“さん”付けで呼ばれることがデフォルトとなっており、

「黒沢さんこそ『孤高の人』だ!」
「黒沢さん一生付いていきます!」
「坂本キャラ歴代ナンバーワンだな」
「もう黒沢さん主人公でよくね?」
「ワタシガセカイノクロサワデス」

と、とどまることを知らない黒沢さんフィーバー。前日に食したのが焼きそばパンとパック牛乳だけだというのに、氷点下10度以下の極寒の雪山を凍っているはずのジーパンと、ダウンJKTと素手でどこまでもてっぺん目指して登っていってしまう森くんのターミネーターっぷりと、それをフル装備で追っかけていく大西センセと黒沢さんのヒューマンドラマっぷりの対比で総計10話以上にも及んだ遭難篇も、先週ついに折り返し地点に到着した様子。まさか、彼があんなことになるとは.....。

現在発売されているコミックは1巻のみで、まもなく2巻も書店に並ぶ予定(のはず)。文句無しに本年度最強の画力とストーリーで突き進む本作を、見逃す術はありません。『クライマーズ・ハイ』なんか観に行ってる場合じゃありませんよ。やべ、俺あち......。

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