NUMBER (N)INEだけどNo.1

 内には『ジ・インフォメーション』に次ぐニュー・アルバムをリリース予定らしい、永遠の赤丸ほっぺのベック・ハンセン様ですが、昨年の『Mac Fan』のカヴァーになるより前あたりから、「ぜってーナンバー・ナインにハマってんな」と推察していたら、どうやらホントにご心酔らしい。しかも、滅茶苦茶似合ってるもんだからたまらん。というわけで、僕の中で約8、9年振りのN(N)ブームが到来(すんません、単純で)!   ここ数年の、あまりにも分かりやすすぎて節操のない(カート・コバーン期の後にアクセル・ローズは無いわ)コレクションのテーマにうんざりし、(ジョニー・キャッシュ期とジョージ・ハリスン期の違いは、ファン以外には分からんだろ)すっかりブランドおよび恵比寿のショップとは疎遠になり、「N(N)がキッカケで『snoozer』を本格的に購読し始めた」というミーハーな動機が事実だったゆえ、他人に「N(N)好きなんだよね?」と訊かれるたびに、「別に...」と、エリカ様のごとく不遜な態度で返答し、居心地の悪さを覚えていた僕だが、今なら言える。今だから言える。

「もうナンバー・ナインしか愛せない!!」

と、なぜかクラクソンズ表紙号の『snoozer』のコピーみたいになってしまうのは仕様として、自分がかつて己のすべて(アルバイトの給料から思想まで)を捧げ、そ
の世界観とフィロソフィーを全身で享受したといっても過言ではない、宮下貴裕ことナンバー・ナインとの思い出を、無駄にシリアスでドラマティックに語ってみたい。

2000-2001A/W -REDISUN-  

 僕は、東京のショップがまだ原宿にあったころは、そのブランドの名前すら意識していなかったのだが、ナンバー・ナインの記念すべき初の東京コレクション(モデルとして伊賀大介が歩いていたりした)となったこの時期に一世を風靡した、あの幾何学的なクロス柄を初めて目にした時、あまりの美しさに息を呑んだ。当時からモノトーンを基調にした作品が目立ち、「モデルが正面を見ず、俯いたままランウェイを歩く」という強烈な違和感は、当時のファッション・シーンだけでなく、僕の心までも射抜いた。のちにジャム・ホーム・メイド製だと知ったボール型ウォレットチェーンの価格が12万円と聞いて泣く泣く諦め、竹下通りで購入した粗悪品で周囲を誤摩化したが、自分を誤摩化すことはできなか
った。世間でのN(N)の認知度と評価はじわじわと高まり、件のクロス柄をあしらったスニーカーは、都内の委託ショップ(まだヤフオクが市民権を得てなかった)で定価の5倍以上のプライスが付けられることとなった。伝説の始まりである。 ちなみに、ケータイの待ち受けは2年以上コレだった。 


2001S/S -TIME MIGRATION-  

 誰もが「あ、あのTシャツN(N)だ!」と気付くようになるほど、独特の世界とブランド・ネームが世に広まる決定打となった、もはや語り草のコレクション。恵比寿に店舗を移したのはこのシーズン前後で、コンクリートと鉄とガラスだけの無機質な内装には死ぬほど惚れた。髑髏が有名な、ご存知、散弾銃で打ち抜いたかのような穴空き(アナーキー)Tシャツは、モノトーン×神話的・音楽的なモチーフのプリントも然ることながら、生産ラインでウォッシュを施し、古着のようにくすんだ色合いと風合いを表現した革新さも相俟って、全国的に大ブレイク。定価1万円のTシャツが入荷と同時に即完売し、キムタクが着用した「MILK&COOKIES」プリントのTシャツに至っては、委託ショップではジャケットも買えそうな5万円まで値がつり上がった。また、中国系の雇われバイヤーが入荷日に長蛇の列をつくり、強引に買い占めていってしまうという事態が社会問題にまで発展。これには宮下氏だけでなく、高橋盾など多くのデザイナーが頭を抱えることとなった。地方のセレクト・ショップには若干の在庫が残るものの、「N(N)だけ通販一切禁止」という暗黙のルールがあったために、東京のファンの飢餓感はもはや沸点に達していた。噂では、この頃の恵比寿店の1日の平均売り上げ額は、500万円を超えていたらしい....。

 多くの芸能人やミュージシャンがブラウン管の中で、これ見よがしにN(N)のTシャツを着用するようになったのは、この時期からだったと言っても過言ではないだろう(基本的にリースは厳選されるので、みな私物なのだが)。ワンギャルが着てたのはまだしも、コロッケがクロム・ハーツのアクセとエイプの迷彩ジャケットに合わせていたのは勘弁ならなかった。しかし、アンダーカバーやコズミック・ワンダーや(W)TAPS)などと絡め、巧みなコーディネートを見せてくれていたPuffyのお二人はまさに当時の僕のファッション・リーダーで、毎週水曜日に放送されていた『パパパパパフィー』は必ずビデオに録画していた(亜美ちゃんと付き合い出したGL●YのT●RUの私服が、明らかに裏原系にシフトしたのには笑った)。残念ながら、僕がオフィシャルで購入に成功した商品は、ステッカーやトートバッグなどの情けない小物ばかりで、ファッキン委託屋の設定した法外なプライスに抗う術は無かったのであった。この背徳の社会現象の勢いは留まることを知らず、宮下氏の心と体を無惨なまでに疲弊させたようだが、皮肉にもそれは、2ndアルバム『ネヴァーマインド』の世界的なブレイクによって、不本意ながら稀代のロック・スターとして祭り上げられ、神格化されてしまったカート・コバーンの姿と重なるのだ。


つづく(疲れたので)

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