JAZZ地獄

 年のフジロックでは、朝風呂が想像を遥かに超える行列だったために泣く泣く諦め、グリーン・ステージから聞こえてくる狂乱の宴に歯軋りすらする想いでしたが、ついにSOIL&”PIMP”SESSIONSのライブを初体験してみました。ついでに、職場から10分圏内だというのにSHIBUYA-AXも初体験。まあ、4月のリキッドルームでのジャイルスのイベントで、ピアノの丈青を中心とした派生トリオのJ.A.Mと社長の姿は拝んでいたから、まったくの初めてってわけでもないんですが。

先日リリースされたニュー・アルバム『PLANET PIMP』がメインとなるセット・リストだろうから、“Hollow”あたりからドッカーンとおっ始めるのかと踏んでいたけど、いざ蓋を開けてみれば、これまたマカロニ・ウェスタンちっくなBGMに乗って、ラーメン大好き小池さん風の丈青がのっそりとステージに表れ、流麗なピアノを奏で、それに続くようにメンバーが一人づつ登場し、自らの楽器を重ねてジャムに参加していくという、NYの路地裏かと見紛うような演出に脱帽。予想は裏切られたけど、いいね、こういうのも。

今夜もゴージャスにドレス・アップした社長のアジテーションに導かれ、ひたすら熱気を帯びて行く場内は、前半で早くも披露されたキラー・チューン“マシロケ”で最初のピークを迎える。そして、社長が余裕たっぷりのMCを聞かせた後、「Welcome to Death Jaaaaaaazzzzzzzzzzzzz!!!!!!!!!!」のシャウトに呼応するようにステージ後方から超巨大なミラーボールが降臨し、会場全体に眩いまでの光を放射する。もうここからは、有無を言わさず踊らせる怒濤のソイル劇場の幕開け。そういえば、『STUDIO VOICE』7月号にミラーボール専門の会社が紹介されていて、渋谷のWOMBとかにも設置しているような業界屈指のオーソリティーらしいんだけども、そこが僕の地元から2駅の場所なんですよね。今度会社見学行こうかしら。

 閑話休題。まあ、ソイルの何が凄いって、グラストンベリーにも出演してしまう圧倒的なセンスと演奏スキルも勿論だけど、なんといってもあの絶倫なスタミナとテンションだよね。とりわけ、音楽的要素の大部分を担うホーン・セクションの2人がヤバイ。肩で息をしながら酸素スプレーをしきりに用いつつも、楽曲のもつダイナミズムを削がぬよう、苦しい顔など一切見せずにオーディエンスを楽しませてくれる。サックスの元晴なんて見かけはデーハーだけど、間違い無くライブの度に頭の血管何本か切れてそうな超絶っぷりだし、「全身全霊のパフォーマンス」とか「音楽に命を賭ける」とは良く言ったもんだけど、本当はこういう人たちのことを言うんだろうなあ。と、思わず感動すら覚える始末。一番の謎は、エントランスに寄せられた関係者からの花の中に、ジェロの名前があったことぐらいか。

東京2DAYSの初日ながら、アンコールも2曲演ってくれたし、中盤でまさかのJ.A.Mの3人によるワンシーンもあったし、とにかく「おいしい」ライブでした。どれぐらいおいしかったかって? そうですね、違う言い方をすると、「おいしい」ということです。

映画総括2008年ゆけむり上半期篇


 







 べー、今年はペースが遅いなー。でも、確実に去年より名作が多い気もする。とりあえず、現時点までの劇場鑑賞映画をまるっと総括してみよう。

※(まだ公開中の作品もあるので、後悔しないよう注意)

■1/31『スウィーニー・トッド〜フリート街の悪魔の理髪師〜』68点
 ジョニー・デップ×ティム・バートンという定番タッグは勿論、ジョニーの歌声が存分に味わえる小気味良いミュージカル仕立て。続々と来店する客(餌食)をバッサバッサ切り裂き、からくり椅子でドサドサ落下させていくシーンには爆笑。だけど、観賞後に印象に残るのは「アイフィ〜〜ルユージョア〜〜ナ〜♪」のみなのが残念。

■2/4『ミスター・ロンリー』75点
 ハーモニー・コリン待望のカムバック作。リアルとフェイク、偶像と虚構のひずみに垣間見える人間の儚さと愚かさ。サマンサ・モートン太り過ぎ。

■3/5『アメリカン・ギャングスター』89点
 デンゼル・ワシントン扮する稀代の麻薬王と、ラッセル・クロウ扮するKY刑事がお互いの存在を認識していながら、終盤までまったく対面しないままストーリーが続くのが素晴らしい。毛皮のコートを暖炉にぶち込むシーンが白眉。

■3/27『潜水服は蝶の夢を見る』70点
 仕事にも家族にも恵まれ、勝ち組人生爆走中だったはずの男が、突如ロックドイン・シンドローム(閉じ込め症候群)という難病を患い、唯一動かせる左目の瞬きだけで意思疎通をはかったという、信じられない実話小説の映像化。しかし、脳内はクリアなので主人公ボビーの心の声は観客にのみ聞こえる。あくまでそれは健常者そのものの思考であって、下心や悪態丸出しのその声には思わず笑みが。日本では特に顕著だが、身体障害者をテーマに扱ったドラマや映画には「どう? 可哀想でしょ」と言わんばかりの、これ見よがしな低俗涙腺弛緩系が目に余る。あまつさえ、そんな障害者を利用しているだけでしかないゴミに感動を覚える輩の多い、民度の低いジャポネーゼには易々とは作れない映画。そう思うと、『ビューティフル・ライフ』における柊二(キムタク)の、車椅子に乗る杏子(常盤貴子)に対するバリアフリーなコミュニケーションは革新的だったはず。

■4/4『マイ・ブルーベリー・ナイツ』5点
 主演のノラ・ジョーンズの大根演技には目を瞑っても、人生において一切意味を持たない薄っぺらい台詞のオンパレード。こういったお洒落ちっく映画だけをホイホイ観に行って、悦に浸るようなスイーツ女とは絶対にデートしたくない。満場一致、2008年度ワースト映画確定(あ、『スシ王子』観てねえや)。愛しのキャット・パワーの経歴も汚されてしまった。

■4/14『コントロール』82点
 ジョイ・ディヴィジョンのドキュメンタリーもやってるし、最近俄に騒がしいイアン・カーティスの短い生涯を描いたモノクロ映画。キャスト自身が演奏するライヴ・シーンの迫力や、サム・ライリーの憑依っぷりも見事でなかなかの力作に。トニー・ウィルソンも似過ぎ。アニーク美人過ぎ。サマンサ・モートンやっぱり太り過ぎ。

■4/16『ノーカントリー』92点
 アカデミー賞作品賞だそうで。なんと、エンドロールまでBGMが皆無。それがシガーの操る空気銃から発せられる咆哮の恐怖を助長させてくれる。主人公ルウェリンの嫁が『トレインスポッティング』にてユアン・マクレガーとまぐわった、あのダイアン(ケリー・マクドナルド)だと観賞後に気付いて驚愕。独特の後味の悪さが、逆に作品の評価を決定的なものにしている。

■4/21『クローバーフィールド〜HAKAISHA〜』175点
 DVDで観るぐらいなら観ない方がいい、今世紀最強の終末パニックムービー。あえて無名のキャストだけを起用したことで感情移入を容易に促し(単純にギャラも安い)、良い意味で「映画っぽくない」「リアルな」映像に対して心行くまま擬似体験が可能。ただ、カメラマンのハッドが殺害される寸前の、HAKAISHAをまじまじと撮影するシーンだけは余計だったかも。まあ、そんなことは気にならなくなるほどの大傑作です。

■4/30『アイム・ノット・ゼア』31点
 劇中に「ボブ・ディラン」という名前は一切登場しない。単にディランの6つの人間的側面を、6通りのキャストが“ディランっぽく”演じているだけ。かといってそこに真新しいトピックが見出せるわけでもなく、これまた意味のない悪ノリ映画に終止してしまっている。うーん、個人的にヒース・レジャー(故人)とシャルロット・ゲンズブールの組み合わせは良いと思ったので、この2人だけにクローズ・アップした映画を撮ってもらいたかった。ますますヒースの夭逝が悔やまれます。R.I.P.

■5/14『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』99点
 アカデミー主演男優賞を獲得したダニエル・デイ=ルイスは勿論、個性豊かなキャストと、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドによる不協和音だらけの音楽や、静と動を巧みに使い分けたカメラワークに、圧倒的なカタルシス。賞賛すべき点を書き出せば枚挙に暇がありまへん。3時間近くの上映時間ですが、観て絶対にソンはしない。ので、明日にでも早速劇場へどうぞ。「アイ・ドリンク・ユア・ミルクシェイク!!」

■6/2『パラノイド・パーク』45点
 すべりこみセーフ。相変わらずガス・ヴァン・サント監督は「死」を目一杯膨らませて描くねー。まるでボーズ・オブ・カナダの音楽を聴いている時のような、陶酔感の漂う映像美にかけては他の追随を許さない出色の出来。でもなー、ラストも「あれっ?」って感じだし、鑑賞したことによって人生観が大きく変化するような作品ではないです。DVDで持っておきたい映画。あと、『エレファント』の時といい、『ラスト・デイズ』の時といい、ガス監督が新作発表するたんびにしゃしゃり出てくる某ファッション・ブランドがウザ過ぎます。あんなにラインナップいらないって。

 と、まあ、これだけしか鑑賞していないのにデカイ口を叩いてしまいましたが、何年かに1本あるかないかの傑作がすでに3本もあったので、今年は当たり年のような気もしますね。また年末にでも執筆しまーす。

いやあ〜映画って、本っ当にいいもんですね〜。

アンタ達もつべこべ言わずに観なさいよ!!

それでは、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ.....。